怪獣ネテクラスといえども本業はサラリーマンなので、平日は会社に行かなくてはならない。
とはいえ絶不調、ということもなく、寒気がするだけだ。咳も鼻水も出ない分、だいぶマシだといっていいだろう。
ここのところの朝の冷え込みはなかなかのもので、ワイシャツ上着なし、というスタイルで出勤する人もほとんど見なくなった……という光景を目にすると、つい思い出してしまうのが会社の先輩である進撃さんのことだ(もちろんこれは、僕が勝手につけたニックネームである)。
進撃さんはスーツの上着を着ない。
上着は合理的ではない、というのが自説なのである。
春、夏、秋とワイシャツ姿で駆け抜け、さすがにそのスタイルでは寒さに耐えかねる冬真っ盛りになるとワイシャツの上にコートを着て通勤する。会社に着いてしまえば空調があるので上着がなくても寒いということはない。
とはいえ、客先でのミーティング等で上着を着なければならないこともたまにあるので、それ用の上着も一着持っていて、何本か持っているパンツはすべて上着に合わせた同じ色らしい。
もう何年も前の話になるのだが、進撃さんに「好きな時刻」を聞かれたことがある。時刻を聞かれているわけだから、「1時15分」とか、「22時40分」とか、そういう風に回答すべきところなのだろうが、その時の僕にはお気に入りの時刻について持ち合わせがなかった。
強いていえば、会社の終業時刻である17時30分だろうか……などと考えていると、僕の回答を待ちきれなかった進撃さんはこう言ったのであった。
「アナログ時計が好きな時刻を指したときの、長針と短針の内側の角度を計算する式を考えて、Excelのワークシートに組み込んだんだ。角度を知りたい時刻ってない? すぐに調べられるけど」
言われていることの内容は理解できるのだが、その手前のぬかるみに足を取られてすっ転んでしまい、足をくじいて動けなくなったような気分がした。
「角度を知りたい時刻があるか」と問われて即答できる人って、あまりいないのではないだろうか。なんとなく興味深い話題のような気はするのだが、今までそういう風に時刻というものについて考えたことはなかった。
くじいた足を押さえながら、何を言うべきかわからなくなっている僕を見て、進撃さんは、
「ああ、ごめんごめん。そうか。普通の人はそういうことに興味ないか」
と言い、少しさみしそうに笑ったのであった。
年長者についてこういう言い方は失礼だとは思うけど、「尊敬」でも「あこがれ」でもなく、僕は進撃さんをけっこう気に入っている。