平熱通信

妄想癖、心配性、よそみがち。

ないないづくしの99ブルース。

ヒゲを剃る時に使うジェルがなくなってしまった。
これは今日中に買わないといかんなあ、などと思いつつ顔を洗い、化粧水のボトルに手を伸ばしたらこれまた空であった。

実はさきほど、コーヒー豆をきらしていたことに気付き、財布の中に紙幣が一枚もないことも確認済だ。今日はなんだかいろいろとない日のようだ。注意深く用心してやるべきことを忘れずに行動しないと細々と困ったことになりそうだ。まずはどこかでお金を下ろさなければならない。会社に行くコースの途中のどこかにATMはあったはずだ。記憶をたぐり、その場所を思い出す。

ATM立ち寄りの件以外にも、ハガキを投函する用事があったので、いつもより5分ほどはやく自宅を出る。ポストへは最寄り駅に行く途中で寄ることができる。駅前の信号を渡り、向かうべき方向の反対に首を曲げるとそれは視界に入る。距離にして10メートルほどの寄り道だ。

今朝もいつものように駅前の信号を渡り、駅に向かう方向とは反対のほうに顔を向ける。そこに見えるポストにハガキを投函すれば、今日の最初のミッションは終了になる。

ところが、ポストがなかった。
かつてあったはずのところに、ポストはなかったのである。
よくよく考えてみれば、ポストだってなんだって、地上に設置されたあらゆる人工物は、どんなものであれなくなる可能性はあるのだ。ただその時、「かつてポストがあったあたりの空間」を呆然と見つめていた僕は、「ポストがない」という事実をうまく飲み込めずにいた。「何か事情があってポストが撤去された」という仮説よりは「何かのきっかけでパラレルワールドに迷い込んだ」という仮説に乗っかってしまいそうな気分であった。きっと、駅にやってくる電車は昨日までの四角い電車ではなく流線型の車輪のついてないやつで、会社での打ち合わせで配られるのはダブルクリップにはさまれた資料ではなく小型のピストルなのだ。

それにしても、ポストはいつなくなったのだろう。日ごろそれほど注目するところではなかったとはいえ、まったく気付かなかった。

今日はなんだかいろいろとない日のようだ。

※ちなみに今回のタイトルは駄洒落みたいなもので、特に意味はない。