平熱通信

妄想癖、心配性、よそみがち。

起きなかった惨劇と僕のささやかな敗北感。

テレビのニュースから聞こえてきた「店員をオカズに……」というアナウンサーの声に、宮沢賢治の『注文の多い料理店』をふと思い出し、なにやらとても猟奇的な事件が起きたのではないかとドキドキする。その時、頭の中に流れていたセリフは、

「おい店長。あそこにいる店員、あれはなかなか肉付きもよく、こんがりと焼けばさぞかし美味かろう。あれを持ってまいれ」

……である。

結局のところそのニュースは、深夜に店員なしでの営業を試みているコンビニがある、というもので、「店員をオカズに」は「店員を置かずに」なのであった。
なんともまぎらわしい、誤解をまねきやすいニュースである。僕と同じように、猟奇殺人事件だと思ってしまった多くの人たちが、抗議などしているかもしれないぞ、などと思いかけたものの、僕が想像したような事件が本当に発生しても、おそらくアナウンサーは「店員をオカズに……」とは言わないだろうということに気付き、これはあれか、勝ち負けでいったら負け、という状態なのか、などと思ったものの、何に負けたのかはよくわからない。