とある駅のトイレの中で見たものを、そのまま書いてみる。
男性用の、あの縦に細長い便器と、そのそばの壁に挟まって眠っている人がいた。
その便器はトイレの端、壁のそばにあり、便器と壁の間には、横向きになれば身体が挟まるくらいのすき間がある。彼は、そこに挟まった状態で、つまりは立った状態で眠っているのだ。書いている自分でもなんだか嘘っぽい話のように思えてしまうが、これは本当の話だ。
彼を見た時にまず考えたのが、どうしてこんなところで眠っているのだ、それも立ったままで、という疑問についてである。
睡眠をとるためにトイレに来る、ということはあまりないように思われるので、やはりここは、そういう予定ではなかったのだが、想定外の結果として眠ってしまった、というように推測するのが妥当なのではないだろうか。
トイレで用を足した直後、強烈な睡魔に襲われて身体がふらついてしまい、その勢いで幸か不幸か便器と壁の間にたまたまうまいことハマり、そのまま眠ってしまった。
本当かよ、という気がする。
彼は、便器のてっぺんの部分に頬杖をついて、けっこう安らかな顔をして眠っている。その様子を見ると、予定の行動としてここで眠っているように思えなくもない。そういえばこの駅のトイレは最近改装されて、空調がしっかりと効くようになったのだ。つまりここは、トイレの外よりもかなり暖かいのである。
トイレの中で待ち合わせをしていた男性が、暖かさでついうとうとしてしまった。
当初の推測、つまりたまたまハマってしまった説をなかったことにして、こういう仮説を立ててみた。立ててはみたものの、真相が明らかになることはきっとないのだろうな、と思う。