平熱通信

妄想癖、心配性、よそみがち。

おえおえおん。

ここに書いている文章は正確な意味での日記ではないので、書かれていることは本当にあったことだったり多少のアレンジが加えられていたりまったくの空想や妄想であったりする。
なんにせよ身の回りで起きたことが参考になることは多く、日々キーボードの前に向かう時には「今日はなにがあったかねえ」みたいなことを考えるのだが、最近、思い出すエピソードの舞台がトイレであることがけっこう多いということに気付いてしまった。もしかすると、トイレは小さなエピソードがこんこんとわき出る穴場なのかもしれない。
平日であれば、一番多くの時間を過ごしているのは会社に与えられている自席であるはずなのだが、自席での記憶は帰宅するとほとんど消失している。もしかしたら自席に座っている間は気絶でもしているのかもしれない。

最近、会社のトイレの個室に入ると、他の個室からおえおえという声が聞こえてくることがよくあるのだ。おえおえとはつまり、嘔吐時によく聞かれるサウンドのことで、それがトイレの個室から聞こえてくること自体にはそれほど違和感はない。生きていれば会社のトイレにそういうサウンドを響かせることだってあるだろう。

ただ、今回のおえおえ音は、続くのである。
毎日とはいわないが、僕が個室を使っているとかなりの高確率でどこかからおえおえ音が聞こえてくる。さすがにそのサウンドだけで断言はできないが、もはや「慣れる」といっていいほど何度も聞いていると、サウンドの主は同一人物のように思えてくる。
どこのどなたが知らないが、心身の調子に問題がある人なのだろうか。個人的な経験をいうと、大昔、会社のトイレでおえおえ音を発したことはあって、それはとても気の滅入ることであった。よつばちゃんなら「へこむわー」と言うところだ。その記憶のかけらのようなものは僕の中に小さく残っていて、だからついおえおえ音を発生している彼について心配すらしてしまうのだが、もしかするとかなりの酒飲みで、だいたい日中は二日酔い、と言う可能性もある。

というよりも、なのである。
今さらながら気づいてしまったのだが、よくよく考えてみると、僕が個室のトイレを使うタイミングで、高確率でおえおえ音が聞こえてくるのはなかなかに不思議なことなのではないだろうか。
この不思議現象について説明できる「可能性」として、「彼が四六時中トイレにこもっておえおえしている」、「僕と彼がトイレに行きたくなるタイミングのシンクロ率がハンパなく高い」くらいは思いつけるのだが、現実味という意味ではもうひとつのような気がする。その上、「僕がトイレの個室に入ると近辺の個室にいる人がおえおえする」という「可能性」を思いついてしまい、キーボードの前で静かに呆然としているのだ。