もしかしたら、源氏パイとチップスターがあれば生きていけるのではないか。
緊急事態宣言が発表され、自宅待機生活に突入してしばらく経った頃、僕はそんなことを考えていたのだ。
それはつまり、近所のスーパーから米やらパスタやらパンが消えていた時期である。幸いにもそういう時期は長くは続かなかったが、その後も、スーパーではレギュラー格であるはずの食料品がいつも何か売り切れているという状況が（少なくとも我が町では）続いている。
平時には容易に手に入ったものが店頭からきれいに消えているという光景はそれなりにインパクトがあるものだが、それで心身を乱されるのも面白くないので、我が家ではその分お菓子を多めに買って、それを食って生きていくことにした。名付けて「マリー・アントワネット作戦」。もちろん僕の命名だ。
実際のところ、食事が成立しないほどの食材危機にはならなかったので、ある意味これは冗談みたいな思いつきではあるのだが、買い込んだお菓子でいっぱいになったトートバッグをリビングの壁にフックで設置して、「ひもじくなったらこれを食べてよし」などと言ってみるのはけっこう楽しいものであった。我が家は家族四人中三人が女子（犬含む）なので、自宅にお菓子が多めにあればそれだけ家庭内は平和になる。僕としても自宅にいる時間が長い分、お菓子に手を伸ばす機会も平時よりは多くなっていて、日々なにかしらの封を切っている。
お菓子の在庫がさみしくなってくると、生活必需品の買い出しのついでに補充をする。そういう生活をしばらく続けた結果得たものが、冒頭にも書いた、源氏パイとチップスターへの鉄壁の信頼感だ。
今のところこのふたつについては一向に飽きる気配がないのだが、ああ美味い美味い今日も美味いぞ等とつぶやきながら食べ続けていたものだからしっかりと体重が増えてしまった。ことによると、次に出勤する時に着るもののサイズが合わなくなっているかもしれない。
ちなみに、パイと名の付くお菓子で僕が一番好きなものは、福島銘菓エキソンパイなのだ。
同じ会社の商品であるままどおるは比較的東京でも手に入りやすいのだが、エキソンパイはなかなか入手困難なのである。どうしてあんなに美味いものを、と常々思っているのだが、とりあえず今回のこの文章にはあまり関連のない話だ。
