平熱通信

妄想癖、心配性、よそみがち。

待機と雄たけび。

朝の5時から7時台に犬の散歩をする為に外出する。時間にばらつきがあるのは天気や犬の機嫌によって出発時刻を変えるからだ。今、僕が外出するのは基本的にこの時間帯だけになっている。
ただ、週に一度くらい、夕方の買い出しを手伝うことはある。重たいものを買う時に荷物持ちとしてお呼びがかかり、米だの大袋入りのドッグフードだのをえっちらおっちらと運ぶのだ。本来なら生活必需品の買い出しは一家族ひとりというのが理想なのだろうが、我が家の場合、荷物の運搬に使える車両がママチャリ一台しかないので、このような作戦をとっている。

8時ごろから机に向かう。
会社に通っていた頃の定時である7時50分から(昼休みをはさんで)16時30分くらいまではとりあえず机の前にいて、ちょっと興味があった資格の参考書を読んでいる。
これがなかなか上手に読めなくて意外なほど時間がはやく進む。夕方になり、さてさて今日はどれくらい読めたかな、などと確認するとたいがいそのページ数の少なさに愕然とする。
おそらく、加齢により頭が固くなってしまったことと、持病のため目がポンコツになっていることが原因だろうと思うのだけれど、びっくりするほど単語が頭に入らない。当然、当初の予想よりも進捗は悪いのだが、今回の場合、「出社時の就業時間くらいは机に向かう」というのが第一の目標なので、進みの悪さについてはあまり気にしないことにする。
いわゆる参考書というものを久しぶりに読んだのだが、今後このような機会がもしもあったとしたら、学習計画は余裕をもって立てる必要がある、ということがわかったのは予想外の成果であった……というのは負け惜しみなんだけれど、学生時代と同じくらいできる、と思ってはいけないのは間違いない。決して勤勉でもなければ優秀でもなかった学生時代よりも今はさらに下、ということは覚えておいて損はない。

今回の自宅待機については、かなり意識的に(それこそ冗談みたいに)「会社にいる時にあわせる」ことにこだわっている。それくらい杓子定規にしていかないと、おそらくあっという間に生活のリズムが崩れ、ふと気がつけば「ヒルナンデス!」を観ながら発泡酒を飲んでいたりしかねないような気がするのだ。
もちろんこれは、僕が真面目な人間だからそうしている、というわけではない。自宅待機は「待機」であって「休暇」ではない、というようなことを上司に言われ、そりゃまあそうだよな、と思うのでそうしているだけで、そうすることに特に好きも嫌いもない。要は、会社員なので会社の指示に従っているだけのことだ。

夕方から夜にさしかかるくらいの時間になると、五日に一度くらいの割合で雄たけびを上げながら高速移動する集団の声が聞こえてくる。直接その光景を見たことはないのだけれど、雄たけびがドップラー効果を発揮しながら遠くなっているのでおそらく自転車で移動しているのだろう。その声色から察するに、おそらく中学生とか高校生くらいの集団のように思われる。
今、インターネットを見ると、けっこういろいろなところで時間つぶし用のおもちゃ(無料で観ることのできる動画とか)を用意してくれていたりするのだが、そういうものでは如何ともしがたい少年少女たちの雄たけびなのだろうか。たまに買い出しにいくスーパーはいつでもそれなりに混んでいるし、すべての人が自宅でなるべくじっとして過ごす、というのは、僕が思っている以上に困難なことなのかもしれない。

そういうわけで、ここのところとりたてて面白くもおかしくもない日々を送っているのだけれど、「自宅にいてもなにをして過ごしていいのかわからない」という状態ではないというのはわりと幸運なことなのかも、などと思わなくもない。
というか、それ以前の問題として、生粋のインドア派人間としてのスキルが最大限に発揮されているだけのような気もする。

「俺は、選ばれし自宅でじっとできる男」

「俺は、お気に入りのマンガをけっこう何回も繰り返して読める男」

「俺は、ひとたび空想や妄想の世界に飛び立てば小一時間は戻ってこない男」

……まあ、この状況下でなければなかなか声高に誇れないスキルではある。