平熱通信

妄想癖、心配性、よそみがち。

あなたがいるなら。

ふと気づくとまるまる五日ほど外に出ていないということに気づき、たまたま雨がやんでいたので散歩をしてみた。時刻はだいたい19時くらい。またいつ雨が降ってきてもおかしくない空模様だったけど、傘は持たずにウチを出た。もしも雨が降ってきたら小走りで帰ればいい。雨に濡れる被害を最小限にとどめるには全力疾走が望ましいのだろうが、今の自分の性能を考えると、そんなことをしたらすっころぶか足をぐねるに違いない。

特に目的地があるわけでもなく、なんとなく近所を徘徊する。
曲がり角が訪れる度に適当に曲がり、日常的な行動範囲から少し外れたあたり、つまり、帰り道がわからなくなることはないけれど、何回か試行錯誤はしなくてはならんかな、というくらいのところにある路地に、逆立ちをしている人がいた。

逆立ちをしていたのは男性で、年齢は30代というところだろうか。着ているものはTシャツと短パン。逆立ちをしているのでTシャツがめくれ、胸部腹部があらわになっている。僕のような素人が見ても、運動するのが好きなんだな、と思わせる肉体だ。

逆立ちマン(……ネーミングセンスはひとまず置いておくとして)は逆立ちをしたまま路地をゆっくりと歩いている。そのそばには小学生くらいの子供が三人。近づくと、口々に「すげー」だの「やべー」だの「えぐーい」だの言っている声が聞こえてくる。たしかに、ひっくり返るほど驚きはしないものの、どう考えても(まさに、逆立ちしても)僕にはできない技ではある。なんらかのトレーニングのための逆立ちなのだろうか。一歩ずつ、しっかりと安定した足取り(?)で歩く様子は、まさに「びくともしない」という雰囲気で、なんとも感心してしまう説得力があった。
どうでもいい話だが、こういう時に「えぐい」という言葉を用いる語法は個人的にはなじみが薄く、はていつの間にやらこのような言い回しが、などと思ったりしている(もしかしたら単に「若者言葉」についていけなくなっているだけなのかもしれない、とも思う)。
とりあえず、心の中で「すげー」、「やべー」、「えぐーい」と賛辞を送りつつ帰宅した。そういえば逆立ちマンも子供たちも、マスクはしていなかった。

今日は知人の誕生日なので、日が変わる前にLINEを送る。
こういう時に、はて何を書こうかね、などと思案するのはとても楽しい。なんといってもお祝いなので、ネガティブなことを考えたり書いたりする必要がない。この誕生日がなかったら、今週、いや、もしかしたら今月に入って一番面白かったことが、「逆立ちマン目撃」になっていたところだ。これからしばらく先の日々を予想してみてもこれといってパッとしたことはなさそうだし、よくぞ今日生まれてくれた、などと知人にこっそり感謝する。

自分の今現在の日々の中にお祝いを言う相手がいることがどれだけ素晴らしいことなのか、ということについては、先日、娘に勧められて聴いた佐々木彩夏の『ハッピー♡スイート♡バースデー!』でよく説明されていた。薄々そう思っていたことについて、真正面から堂々と圧力高めに宣言されたような、なかなか清々しい曲だと思う。