平熱通信

妄想癖、心配性、よそみがち。

雨の中、大声で笑う。

せっかく、棚からぼたもち的な休日(といういい方はあまりよくないのかもしれないけど)を手に入れたのに、どうにも天気が悪い。昨夜から降りはじめた雨は朝まで続き、手元の天気予報アプリによれば昼くらいまでやまないらしい。

こういう日は、犬の散歩(朝編)をいつするのか、なかなか頭を悩ませることになる。刻々と変わる天気予報を確認しつつ、なるべく降雨量の少ないタイミングを見計らう。散歩は基本的に朝と夕方に行われる。うちの犬は散歩の時にしかトイレをしないので、雨が降っても中止にはならない。野外イベントの開催要項風にいえば、「雨天決行、荒天中止」というやつだ。

散歩のついでにトイレしてくれるということは、自宅にトイレを用意して、その管理をしなくてすむということだ。そういう意味では飼い主としては楽をさせてもらっているということになるが、特にそういうしつけをしたわけではなく、彼女(うちの犬は女の子だ)は自らそのライフスタイルを選んだのである。飼い主サイドとしては彼女の選択を尊重し、今に至るわけなのだが、今日みたいな日はちょっと面倒くさいことになる。

雨が降る中、傘をさした僕と、犬用レインコートを着た彼女が散歩に行く。
雨の中の散歩は彼女の好みではなく、できればはやく帰りたい、という気持ちが表情や仕草にあらわれまくっている。外でしか排便しない、というルールのもとで生活しているにも関わらず、その眼差しからは、「今日の散歩は中止でいいんじゃないスか。トイレのことはまあ、その場のなりゆきにまかせるってことで」という意思が読み取れる……とまではいわないが、「まあ、がまんできなくなったらおねしょしてもいいし」くらいのことは考えていそうな気がする。

気持ちが萎えそうになっている彼女をはげましながら、排便したくなるまで根気よく歩き続ける。いまだに、どういう条件が整うとそういうタイミングになるのかよくわからないのだが、突然やってくるその時に、彼女が排出した「作品」を回収する。犬の「作品」を回収するためには、それ専用の袋を使用するのだが、これは回収した「作品」をそのままトイレに流せるタイプのものなので、当然のことながら雨のような水分には弱く、ある意味、金魚すくいのようなスリルがある。

そういえば、先日の台風の日の朝はハードだった。
けっこうな勢いの雨と風の中、決死の覚悟で自宅を出発したのだが、心が折れそうになる彼女を説得しながら散歩をするのはかなり難易度の高いミッションであった。
レインコートが風でめくられて、強い雨が全身を濡らしているという状況で排便することを迫られるのだから、彼女にとっては新手の拷問のようなものだといっていい。それがわかっているからこちらも強い調子で叱咤する気持ちにはなれず、もしも彼女が望むならZARDの『負けないで』くらいは歌ってもいいとさえ思っていた。

どんどん強くなる雨の中、途中で傘は役にたたなくなった。
全身ずぶ濡れになった頃に彼女が排出した「作品」は、大粒の雨に砕かれてあっという間にその形を失い、そのまま下水に流れていった。
呆然とその光景を見つめていると、右手に不快な違和感がある。それはボロボロに形を崩した「作品」回収袋で、手の中のそのかたまりは、なんというか、食べ残されて廃棄されるのを待つオートミールのようであった(このたとえはかなり気を使って言葉を選んだもので、その時の第一印象を率直に書けば白っぽい吐瀉物のようであった)。
雨の中、みるみる形を失くし流れていった「作品」のことを思い出しながら手の中のかたまりを見ていたら、不思議と笑いがこみあげてきて、そのまま彼女とダッシュして帰宅した。彼女はすっかり濡れきって、ひとまわり小さくなっていた。
ちなみに、夕方の散歩は中止になった。

話がそれた(とはいえいつものことだ)。
ということで、僕は今、少しでも雨が弱くなることを祈りつつ、空と天気予報アプリを交互に確認しているのだ。