平熱通信

妄想癖、心配性、よそみがち。

視線と心配。

もしかすると、そういう顔付きの人なのかもしれない。
もしかすると、常に機嫌が悪い人なのかもしれない。
もしかすると、彼の宿命のライバルに、僕は似ているのかもしれない。

始発電車を待つホームでは、だいたいいつも同じようなメンバーが電車を待っている。僕も彼もだいたいいつも同じところで電車を待っているので、なんとなく彼の顔くらいは知っていた。目鼻立ちをしっかり覚えている、というわけではないのだが(そもそも僕は目がたいへん悪いのだ)、その醸し出す雰囲気で、「あ、いつもの人だ」と認識くらいはできるのだ。

彼は僕よりも年上で、ということは、おじいさん、と言ってもかまわない年齢だと思われる。背はそれほど高くはなく、電車に乗り込むと、けっこうな勢いでカバンを網棚に投げ込む習性がある。身なりは会社員風だ。

くり返していうと、僕の目はたいへん悪い。
だから勘違いという可能性もあるし、逆に、だから今まで気づかなかったという可能性もある。
彼はどうも、毎朝僕を睨んでいるような気がするのだ。
それを確認するためにまじまじと顔を見る度胸はないが、僕の視界にたまたま入る彼の顔は常にこちらを見ている。見ているどころかかなり高い確率で目が合ったりする。
その目が、こちらを睨んでいるように見えるのだ。ただひたすらに、じーっと、険しい顔つきで。

上にも書いた通り、そういう風に見える顔立ちなのかもしれないし、僕が勘違いしているだけなのかもしれない。とはいえ、そうではない場合、つまり、彼が本当に毎朝僕を睨んでいる、という可能性も否定はできない。

ただ、そうだったとしても、その理由に心当たりはない。
知らないうちに、僕は彼に失礼なことをしていたのだろうか。それとも、彼にとって、僕の風貌は生理的に嫌悪感を抱くものなのかもしれない。もしかしたら、親の仇と人間違いされている可能性だってゼロではないだろう。

今のところ、特に実害もないので(いや、本当に睨まれているのであればそれは実害といえるのかもしれないが)、そのままいつものところで電車を待っている。これはいったいどういうことなのだろう、という好奇心から、彼を避けてホームの他の場所で電車を待つという行動をとる気になれないのだ。といって、こちらから積極的にアプローチするような勇気はない。

今朝、彼はいつものところにいなかった。
今日は会社が休みなのだろうか。急に冷え込んでいるし、風邪でもひいたのだろうか。
心配……とまではいかないが、その三歩手前くらいの気持ちになっていることに気付く。