平熱通信

妄想癖、心配性、よそみがち。

定時退社とぴょこぴょこドッグ。

ウチには犬が一匹いて、彼女(女の子なのだ)の名前はくり、という。ちなみに名前を付けたのは僕で、目がくりくりとしているというのがその由来だ。マロンのほうの「くり」にちなんだわけではなにのだが、毛の色はちょっと近いかもしれない。より正確にいえば、古い油で揚げた、あまり美味しくない揚げ物のような色だ。

くりが突然、左前足を使わなくなってしまった。
左前足は曲げられて胸の前あたりにあり、残る3本の足でぴょこぴょこと歩く。
歩くどころか時には走ることもあり、飼い主が何か食べているのを見つけたときに駆け寄ってくる時など、ぴょこぴょこしている分動きが縦方向にダイナミックになっているからか、異様な迫力がある。

痛がっていたり、苦しそうにしているようにも見えず、普段と違うところといえば、ただ、左前足を使わず過ごしているだけに見える。今の時点でいえば、僕が一番仲がいい家族はおそらく彼女なので、心配もひとしおだ。
まあ、何を仲の良さの基準とするのかにもよるのだろうが、毎晩ほとんど同じタイミングで眠りにつき、翌朝ほとんど同じタイミングで目を覚ますような付き合いをしていれば、種族を越えて気心が知れたような気にもなってくる。ましてや僕とくりは同じベッドで寝起きしているのだ。

あまりにも痛そうな素振りを見せないので、ふと不思議になってインターネットで調べてみると、犬は仮病を使うことがあるらしいということがわかった。過去に病気やケガをした時に、飼い主にちやほやされたことを覚えていた犬は、かまってほしくなるとその時のまね、つまり仮病を使うことがあるらしいのだ。
とはいえ、彼女は今まで足に関わるような病気やケガをしたことはない。ただ、改めてよくよく観察してみると、おやつのクッキーをあげるときは前足は上がっているのだが、それをくわえてびょこぴょこと部屋の隅に移動して、こちらに背を向けて食べている時には足を着いているようにも見えなくもない。ただ、僕は目がたいへんよろしくないので、その目撃情報に絶対の自信があるかと問われれば「いやそれはちょっと」と口ごもってしまうだろう。
仮病ということであれば、病気やケガではないということなので、それならそれでかまわない。腹が立つこともないだろうし、むしろ、飼い犬が仮病を使う、つまりは演技をするなんて、それだけで面白いような気がする。

仮に彼女が何かの病気になっていて、一生このままぴょこぴょこドッグとして生活することになったとしても、僕の中での彼女の意味合いや価値が変わるわけではないけれど、痛かったりつらかったりするのであればそれはなんとかならないかなあと思う。とにもかくにも、午前中のなるべく早い時間に、奥さんが病院に連れて行くことになった。

ということで、今日は定時退社することに決めた。