平熱通信

妄想癖、心配性、よそみがち。

朝の犯罪被害妄想。

朝6時台を早朝というべきかどうか、僕にはよくわからない。
ある人にとっては普通に活動している時間帯だろうし、また別のある人にとっては、睡眠というイベントの最終段階で、アンコールを求めている時間帯になるかもしれない。
ちなみに、僕にとって6時台という時間帯は、平日であれば通勤している時間帯だ。その影響というかなんというか、出社のない休日にもだいたい同じような時刻に目を覚ましているので、結局のところ6時台は普通に起きている時間帯、ということになる。
昔は、休日にはもっとゆっくりと寝坊を楽しんでいたような気がする。「寝るのも体力いるのよね。トシ取ると長く寝ることができなくなっちゃって。だから年寄りは早起きなのよ」と言っていたのは母だったか。

まあとにかく朝6時台、僕は外を歩いていた。通勤するためではなく、近所のコンビニで買い物がしたかったのだ。
途中、作業服を着た男の人とすれ違う。片手には銀色のツールケースのようなものを持っている。その作業服は、もんのすごく薄い緑色で、上着とズボンと帽子でワンセットになっている。印象としては、電気工事とかガス工事の業者の人、というところだろうか。
男性の服装自体が特に奇抜ということはないのだが、それでも目をひいたのは、作業着もツールケースも、新しいもののように見えたからだ。作業着にシワや汚れは見当たらず、ツールケースも同様で、どちらも本日おろしたて、というような雰囲気がある。こういう、仕事に直結するようなものたちがぴかぴかの新品に見えるというのは逆に小さな違和感を生むのかもしれない。

彼は、これから仕事なのだろうか。それとも、仕事からの帰りなのだろうか。ふと、そんなことを考えてみる。
時間帯からいって、仕事を始めるにははやいような気はするが、たとえば夜勤の帰り道にしては、全体的な出で立ちがおろしたて風すぎる。

そういえば。
空き巣がお目当ての家のまわりを動き回る場合、なんらかの業者風の制服を着ていると近隣住民に不信感を与えにくいらしい。たとえばそれが夜中だったとしても、電気だかガスだか水道だかの突然のトラブルに見舞われた家に急遽呼ばれたように見えるから、というのがその理由で、これはたまたま今読んでいるミステリー小説に書いてあったことだ。本で読んだエピソードと、今の自分自身の体験に、リンクするものがあるのかどうか思案してみる。

ということはつまり、僕がさっきすれ違った彼は犯罪者なのだ、とまではさすがに思わないが、なんとなく気にはなる。いやいや、だってあの人、年齢的にはおじいちゃんだったし、などと思ったり、その直後に、いやいや、犯罪者に年齢制限はないだろうと思い返したりして、心中大忙しだ。

ちなみに、彼が歩いて行った方向には我が家がある。
正確にいえば、彼が歩いて行った方向のどこかに、僕が住むマンションがある。
一応、自宅に電話して、注意喚起しておいたほうがいいのではないか、と一瞬思ったものの、

「今、そっちに、あやしく見えなくもない男の人が向かっていて、もしかするとその人はなんらかの犯罪者かもしれなくて、そのターゲットになっているのが我が家という可能性もまったくないわけではないから、一応注意しておいて」

……こんなことを言ったら怒られないだろうか。

自宅が犯罪被害にあう確率と、寝ているところを起こされて妙な注意喚起をされたことについてご立腹の家族に帰宅後に怒られる確率を脳内で算出し、天秤にかけた結果、一度出した携帯電話を、そのままバッグにしまったのであった。