平熱通信

妄想癖、心配性、よそみがち。

私の中のもうひとりの私。

ひどくイヤな夢を見て夜中に目が覚める。
イヤな夢を見ること自体はそれほど珍しいことではないものの、今回のイヤさ加減は格別で、起きたときに軽い吐き気がしたほどだ。起きてすぐキッチンに直行し、大きめのマグカップでなみなみ一杯の水を飲む。

夢の中で僕がどういう体験をしたのか、それをここで詳しく書いたところで荒唐無稽なコメディになってしまうのでくどくど書かないことにする。僕は姉に騙されて、それがきっかけで職を失い友は去り、あげく謎の組織に追われることになるのだが、リアルな話をしてしまえば、そもそも僕に姉などいない。
かえすがえず、恐ろしいほどリアリティのない設定なのだ。
ただ、夢の中でこの設定に呑まれてしまうと、それは自分と自分をとりまく環境そのものを上書きする。実在しない姉から裏切られた僕は心の底から悲しんだし、組織から逃げている間は胃の痛みと汗でべたべたになった手のひらのことばかり考えていた。もしも夢の中でウルトラマンになったりしたら、カラータイマーが赤く点滅し、死へのカウントダウンがはじまった瞬間に、その恐怖に耐えかねて飛び起きてしまうかもしれない。そして、荒い息を吐き、下着は汗でぐしょぐしょなのだろう。

ところで、夢の中の僕、そして夢の中だけの姉について、ふと気づいたことがある。
僕にしても姉にしても、夢の中の設定年齢がかなり若いように思われるのだ。姉の見た目は20代後半で、僕についてはそれより少し下、という感覚があった。夢の中で鏡を見たわけではないので、自分のルックスが相応に若かったかどうかはわからない。それがわからないのにどうして夢の中での自分を「若い」と認識するのかうまく説明はできないが、夢の中で身体を動かし、誰かと話し、ものを考えるというそのいちいちについての感覚が、今時点の自分のそれとは違ったような気がする。

先週末、久しぶりにかつて通っていた小学校中学校高校予備校の近辺を歩いた。
この辺には友達の誰くんが住んでいた、とか、その誰くんの初恋の女の子はこの先の曲がり角を曲がったところに住んでいたはず、などと考えながら歩いていると、この街を歩いていれば、昔の同級生とばったり再会する可能性が、まあ高くはないにせよゼロでもないということに気付いた。
それに気付いて以降、すれ違う人の顔や背格好から、あの人は某くんに似てはいないだろうか、もしやご本人かも、などと思いつつ歩くようになったのだが、よくよく考えると、その時に目星を付けた人物が、今にして思えばみな若いのである。
無意識に、おそらく20代半ばから後半くらいに見える人物を同級生候補者としてピックアップしていたのだが、本来ならもっと年上層に目星をつけなければならないはずなのだ(いやまあ、世の中には劇的に若作りな人もいるのだろうけど)。

これらは何を意味するのだろうか。
それはつまり、僕の中の年齢設定が、ある時点、具体的には20代後半くらいから更新されていないということなのだろうか。もしくは、これがいわゆる「精神年齢」というやつなのかもしれない。
とはいえ、精神年齢が20代後半って、具体的な特徴のようなものがもうひとつ思い浮かばず、「精神年齢が20代後半だとしたら、それはつまりどういうことなんだ」というようなことをずっと考えている。