平熱通信

妄想癖、心配性、よそみがち。

困惑の甘き香り。

今、僕の目の前には、入浴剤がある。
バスタブに入れると炭酸ガスがしゅわしゅわと発生するタイプのものだ。個包装された小さな袋を開けると、分厚く重ねた500円玉くらい、もしくは、「自爆ボタンが本当にあったらこれくらいのサイズなんじゃないかな」というくらいの錠剤が入っている。
パッケージには、温泉に入ってくつろいでいる人のイラストが描かれている。そのそばには「疲れ」、「肩こり」、「冷え性」という文言が書かれていて、これはもちろん、この入浴剤を使うと「疲れ」たり「肩こり」になったり「冷え性」になったりするという意味ではなく、これらの諸症状が緩和されるかもよ、ということを示しているのだろう。どうでもいい話だが、「諸症状」という言葉の、なんというか、ちょっとつんのめった感じの語感はとても可愛らしいと思う。「しょしょうじょう」。

この入浴剤を使用した時に、ふと違和感を感じたのである。僕としては、それなりに温泉らしい雰囲気を期待してこの錠剤を使ったのだ。まあ、「温泉らしい雰囲気」とはなんぞやと問われてもうまく説明はできないが、とにかくこの入浴剤の使用感にはちょっと首をかしげてしまうところがあった。
錠剤が入っていた袋を裏返すと、このようなことが書いてあった。

・山形/蔵王:林檎の香り

これは、何かが違うのではないだろうか。
それとも、「何かが違う」と思う僕の方が勘違いをしているのだろうか。パッケージに温泉につかる人のイラストが描かれている、にごり湯タイプの入浴剤に期待するものが間違っているのだろうか。
他の地名が書かれた袋もあったので、それを確認してみる。

・兵庫/城崎:梨の香り

「なんだか甘い香りがするなあ」というのが僕の違和感の内容だったので、そういう意味では納得はできた。僕が使った入浴剤は、林檎の香りを発生させるものだったのだ。それが甘い香りであることに、特に異論はない。
ただ、それとは別の、もっと手前のところで、いささか混乱している。何か、根本的なところが違うような気がしてならないのだ。こんなことで混乱するのは、僕だけなのだろうか。