平熱通信

妄想癖、心配性、よそみがち。

メモをなくしただけなのに。

愛用しているメモ帳を会社に置いてきてしまったらしい、ということに、帰宅後に気付く。
とはいえ、どこに置いてきたのか、その具体的な場所の見当がつかない。引き出しの中に入れっぱなしにしてしまった、という状況ならいいのだが、これが机上ということになると大問題だ。

あのメモには、買わなければならないものや読みたい本のタイトルといった、備忘録的な記載の他に、突然思いついた言葉やフレーズというようなものも書かれていて、万が一メモが人目についてしまった場合、圧倒的に恥ずかしいのがこちらなのだ。

たとえば、手元にある古いメモ帳をめくってみると、

「けっきょくは一枚の布」

などと殴り書きされている。
まず言いたいのは、「結局」くらい漢字で書け、ということだろう。
そして、次に言いたいことは、「これはどういう意味なのだ」ということだろうか。
現時点で、あの日の僕が何に閃いてこれを書いたのかまったく思い出せない。たとえば会社からの帰宅途中、ふと何かが降りてきて、あわただしく取り出したメモにようやくこれだけ書き殴る、というような状況だったのかもしれないが、もう少し補足情報を書いておくべきだった。これがもし誰かに見られた場合、説明も言い訳も不可能だ。

もっとまずいのが、ある日突然僕の中で発動する、ロマンチック・エンジンが回転している時に書いたメモを見られることだ。

これはまずい。
大変にまずい。

会社に置いてきたと思われるメモに、ロマンチック・エンジン発動中の時のものがあるのかどうか思い出せないのだが、たとえば過去の発動時に書かれたと思われるメモを見ると、

「この世界に咲く花をぜんぶ君にあげる」

とか、

「SPLASH! 君はマーメイド」

とか書かれていて、こんなものが人に見られたらおそらく気を失ってしまうだろう。

出社して真実を確かめることを想像しただけで、ちょっと信じられないくらい緊張する。
軽く吐き気すらしてきた。