平熱通信

妄想癖、心配性、よそみがち。

真夜中の肉球サプライズ。

夜中、眠っている僕のフトンに入りたくなった犬は、まずフトンからはみ出した肌部分、つまり顔やら手の甲やらをびろびろと舐めることにしている。
そこで僕は目が覚めるわけだが、そのタイミングであわてて目を開くのは大変危険な行為になる。彼女(我が家の犬は女の子なのだ)はその次のステップとして、手のひらで顔をぽんぽんと叩くのである。そしてどうやら、叩く場所として閉じられたまぶたを狙っているようなのだ。だから、どこかを舐められて目が覚めたからといってすぐに目を開くと、露出した眼球を犬の肉球が襲うということになりかねない。

彼女が顔を叩こうとして、その手のひらが僕のまぶたにヒットした場合、彼女はそのまま待機して、僕のフトンがオープンするのを待っている。しかし、ファースト・ヒットがまぶた以外、たとえば額とか鼻だった場合、まぶたを狙って叩き直しているような気がしてならない。

彼女が意識的にまぶたを狙っていると仮定して、興味深いのは「なぜまぶたなのか」ということだ。自分で自分の顔面のあちこちを軽く叩いてみてわかるのは、まぶた付近は他の場所と叩き心地が違うのは間違いない、ということだ。表面が濡れている球体の上に薄い皮がのっているような状態なので、軽く叩くと皮部分がずるりとすべる。その感じが彼女にとっては面白いのかもしれない。

とはいえ、眼球を直接叩かれるのは恐ろしいし、それでなくとも僕の眼球周辺には各種の目薬が染みついているので触らない方がいいには違いない。
だからフトンに入れるたびに、
「目は叩いてはいけません」
というようなことを日本語で説明はしているのだが、僕のフトンの中で寝る場所を確保した彼女はあっという間に寝てしまい、「ずいーずいー」というけっこう大きな寝息を聞いていると、まあいいか、という気になってくる。