平熱通信

妄想癖、心配性、よそみがち。

よい迷子になるために。

先週の金曜日だろうか、朝の情報番組かなんかでアナウンサーの女の人が「10連休中の疲れの出る一週間でした。明日からの週末で体を休めてくださいね」というようなことを言っていた。
なかなか含蓄のあるコメントだなあ、と思う。含蓄という言葉のチョイスがこの場合に適当なのかどうかよくわからないが、ちょっと大人っぽい雰囲気が出るのではないかと思い使用してみた。背伸びをしたいお年頃なのである。背伸びも何も、年齢的には充分に大人ではあるのだが、戸籍上の年齢と実際の成熟度がキレイにシンクロしないタイプの人間というのも少なからず存在するのだ。おそらくあまりいい意味ではないほうで。

過ぎ去った10連休について感想のようなものを書くとするならば、社内のチーム内で調整してかわりばんこに9連休の夏期休暇を取るというようなおなじみの休み方ではなく、みんな一度に10連休するというのはそれなりに大変なことであったと思う。「みんな一度に」が基本的な指針であったとしても、10日も止められない業務があれば運の悪い数人が休日出勤しなければならないし、事前に相応の準備をしておけば10日止めても問題ない業務があれば連休前にその準備を(通常業務と並行して)行わなければならない。会社で誰かが言っていた「こんなに面倒な準備に時間を割くくらいなら5連休でいい」というコメントにはそれなりに重い説得力があったような気がする。

とはいえ、僕はといえば「10連休対策」にそれほど影響されることもなく、言ってみればほとんど苦もなくまるまる10日間の休みを享受したのであった。特に華やかなイベントも「映え」もない、基本的には静かで慎ましい10日間である。通常の週末休みにやってそうなことを何セットか繰り返しているうちに終わってしまった……というのが正直な印象だ。

いつもの休日のように散歩をして、道に迷い、住宅街の狭い路地に入り込んだあげく袋小路に行き着いて、たまたまドアを開けて出てきた付近住民と目が合って気まずい思いをする……というようなことが何回かあった。僕は、人気のある繁華街を歩いていてもそういうところに迷い込んでしまうという、ちょっとした才能を持っているのである(余談になるが、そういう能力を持つ人のことを、個人的にはマヨイストと呼んでいる)。
とはいえ、帰宅が困難になるほどハードに迷うことはほとんどなく、「いよいよわけがわからなくなった時には臆することなくGoogle Maps」という自分内ルールに則っている限り、道に迷っても想定内、いわば「楽しみとしてのマヨイスト活動」なのである。ただ、普段は近所の人しか見かけないような路地にいきなり現れたよそ者を目撃することになった住民の方々にちょっとした警戒心を抱かせてしまう可能性はあるので、あまり心配させないようなちょっとした心配りは必要になる。なんといっても僕は、かつて「殺し屋みたいな顔をしてる。仕事を終えた後の」と言われたことのある人間なのだ。「殺し屋みたいな顔」にもいろいろな種類があるのだろうが、「他人を警戒させない。もっといえば、おまわりさんを呼ばれない」ための工夫はしておいて損はない。立派なマヨイストになるのもなかなかたいへんなのである。

最近採用している工夫は、付近住民の方が不思議そうにこちらを見る視線を感じつつ、その区域から出る事のできる道のほうをさりげなく振り返り、小さく、しかしはっきりと、
「ああなるほど、あっちだったか」
と発言し、「心持ち急ぎ足で」という小芝居をしつつその場から退場するというものである。

もちろん、なにが「なるほど」で、「あっち」になにがあるのか、発言した本人にもわかってはいない。