平熱通信

妄想癖、心配性、よそみがち。

わたしのことがわからない。

最近はどういうわけか落語ばかり聞いている。
朝起きると録画しておいたテレビ番組の落語を観て、通勤の時もスマートフォンで落語を聞く。寝る前だって同じことで、落語を聞きながら眠るのである。

落語を聞くのはもともと好きなのだが、最近はその量が尋常ではない(当社比)。どうやら僕には何かを過剰に摂取してしまう時期のようなものがあるようで、すぐに思い出せるものだけでも、「とある作家のある文庫本を繰り返し繰り返し読んでいた」とか「平常時はそれほど聴くわけでもないテクノをひたすら聴いていた」とか「朝も昼も夜も安いウイスキーをちびちびちびちびと飲んでいた」とか、非常に稀なことではあるのだが、そういうことをしてしまう期間がある。
過剰に何かを摂取するということは、何かが不足していると僕の体がSOSを発信しているということなのだろうか。ただ、落語を過剰に摂取することで僕の体が何を受け取ろうとしているのか、そこはよくわからない。

それはそれとして。
不足しているものを求めるといえば、今、僕はけっこうな情熱を持ってマウスを求めている。パソコンに接続して使う、キーボードの近くに置いて使う、あのマウスである。
今使っているマウスの調子が悪くなり、左のボタンを1回押しただけなのに2回押されたものと勘違いされるようになったのだ。問題があるのは僕の人差し指で、実は細かく痙攣してたりするのでは、というようなことも考えてみたのだが、注意深く観察してもそういう症状は見られない(と思う)。
「シングルクリックしたと思ったらたまにダブルクリックになる」
……つまりはそれだけのことなのだが、「シングルクリックしたと思ったらたまにダブルクリックになる」ことの微妙に不愉快な感じは「シングルクリックしたと思ったらたまにダブルクリックになる」ことを経験したことのある人でなければわからないだろう。

ならばとっとと買い換えればいいのだが、もうかれこれ1週間くらいマウス選びで迷っていて、自分でもどうしてこんなに時間がかかるのかがわからない。
「左右にボタンがあって、その真ん中にくるくるまわるヤツがあればなんでもいいじゃないか」という自分と「いやいやそういうものでも」という自分がせめぎ合っているわけだが、なにが「いやいや」なんだかこれまたよくわからない。
マウスをあつかうメーカー一社の中ですらたくさんのマウスが存在するのである。ということはそれなりに違いがあり、それなりに選択する必要があるように思う……ところまではいいのだが、そもそもマウスに求めるものやこだわりがあまりないので「さてどうしたものか」という状況になっている。あるメーカーのサイトを見てみると、一番安いマウスと一番高いマウスの間には十倍以上の価格差がある。ならば一番高いのを買っておけば間違いはないだろうという決断ができないのは「身の丈にあうモノを使いたい」という妙な信念があるからだ。
で、かれこれ1週間も調子の悪いマウスに翻弄されて「キー」とか言っているのである。

……というように、僕はしばしば自分に対して「何やってんのオマエ」みたいな気持ちになることがあるのだが、これは世間一般においてどれだけシェアできる心持ちなのだろうか。
年齢を重ねるほど、自分のやることなすこと書いたもの考えたことを自分で検分してみて、「何やってんのオマエ」と思うことが多くなっている。これが「人間ってそんなもんさ」なのか「それちょっと病院行った方がいい案件」なのかわからないのだが、そういえば僕は、同性にせよ異性にせよ、自分ではちょっと思いつかないようなことを話したり考えたりする人に強く惹かれる傾向がある。
してみるとこれは、生まれてこの方ずっと好きになれなかった自分を、いよいよ好きになれる時期が来た、ということなのだろうか。

いや、それはさすがにこじつけというものだろう。何言ってんのお前。