平熱通信

妄想癖、心配性、よそみがち。

夏のせい。

ここのところの急な暑さにすっかりとやられてしまい、朝、通勤するだけでもうふらふらである。
出社後、汗がたらたら流れる後頭部をタオルでぬぐいながら水を飲む。もう一日の体力をほとんど使い切ってしまったのではないか、という恐れのようなものを感じ、気持ちを落ち着かせるためにガムを口の中に放り込む。

その後いつものようにガムを噛んだのだが、どういうわけかガムといっしょに唇の端を噛みしめてしまう。
そういうことは今までもないわけではなかったが、たとえばそれは、「一回目は唇も噛んでしまったけれど、二回目以降は大丈夫でした」というもので、今回のように、「口に入れたガムを噛んだ回数だけ唇も噛んでしまう」というのは人生初、もしくはそれに近いレアなケースだと思う。
この異変はその後何回も起こり、昼になる頃には口の中は血の味でいっぱいになった。もはやどんな味のガムを噛んでも血の味しかしない。
かすかな弾力のある、血の味がするものをクチャクチャと噛んでいるという状態が続いていると、なんだか自分が人間ではない生き物になったような気がしてくる。

突然起きたこの異変、つまり、ガムを噛もうとして誤って自分の口内を噛んでしまう率の著しい増大も、この暑さの影響なのだろうか。
つまり、この暑さで、僕の体内を統制する部門がやられてしまったのだろうか。そうだとしたらそれはなかなか困った事態だ。夏はまだまだ続くのである。

このまま暑い日が続くと、僕の口内のスプラッタ化はますます進み、何か話そうとして口を開けた瞬間、唇の端あたりから血がたらりと流れるようになるかもしれない。
うっかりくしゃみや咳などをしようものなら大変だ。鮮血があたりかまわず飛び散ったりして、周辺地域は大惨事だ。
それならばその異変の原因になるガムを噛むのを中止すればいいような気もするのだが、仕事中、それも集中力を要する時にガムを噛むのはどうしてもやめられないのである。どうやら僕は、何か噛んでいないとすぐに眠くなってしまうのだ。

というわけで今日は、ガムといっしょに唇を噛み続け、口の中では血とフルーツのブレンドされた味が広がっている。慣れてしまえば、これはこれで「あり」なフレーバーではある……わけはない。

誰のせい? それはあれだ、夏のせい。