平熱通信

妄想癖、心配性、よそみがち。

流れて行く言葉。固定した思い出。

「新語・流行語大賞」の候補が発表され、「えーこんな言葉使ったことあるかなあ」などと思いつつ、自分がいかに流行に疎いか実感する、というのがこの時期のささやかな恒例行事になっている。

今年ノミネートされた言葉たちは、例年に比べるとまだなじみのあるものが多く、まったく初対面のものはほとんどなかったような気はする。とはいえ、僕にとって身近なものは「サブスク」、「タピる」、「ドラクエウォーク」くらいだろうか。

「タピる」という言葉に関していうと、僕自身が「仕事帰りにいっちょタピっていくか」というようなことはないのだが、時々娘が買ってくるタピオカ入り飲料を自宅で飲むくらいのことはする。
この場合、外出先の娘から「タピオカ入り飲料を買って帰ろうと思うのだがタピオカというものは若い女の子だけが楽しめるものではなく中年でもおっさんでも口にすることができるもの。もしも希望するならついでに買って帰るがどうか?」というような内容のLINEが来て、「いる」と返信して買ってきてもらうことが多い(もしかしたら、多いというよりも、買ってきてもらったものしか飲んだことがないかもしれない)。この娘による宅配サービスを利用すると、僕の分の代金の他に、どういうわけか娘の分の代金も徴収される。Uber Eatsあたりが、ひとつ注文するともうひとつオマケについてくる、というようなサービスを行っていたが、その真逆の発想といえる。ひとつ注文すると倍の料金が徴収されるというのは、かなり斬新なビジネスモデルといえるのではないだろうか。

ところで、ノミネートされた言葉の中にモデルガンのメーカーが入っているのはどういうことなのだろうか、などと思っていたのだが、今回ノミネートされたMGCはマラソン・グランド・チャンピオンシップの略であった。ついでに調べてみると、MGCというモデルガンのメーカーはもう存在しないらしい。僕がモデルガンのメーカーをいくつか知っているのは、中学校時代の友人に重度のガンマニアがいたからだ。
そういえば、片手に愛用のモデルガンをぶらぶらさせた彼と外を歩いていて、おまわりさんに声をかけられたことがあった。おお、これがいわゆる職務質問というやつか、これはやっかいなことになるのかもしれない、などと思っていたところ、おまわりさんはこう言ったのであった。

「君たち、そういうオモチャが好きなのか。……おまわりさんの本物見る?」

今から考えると、なんともおおらかな時代だったのだ、というまとめ方をしていいのかどうかわからない事態だが、それからの数分間は、僕にとっても友人にとっても、なかなか得難い経験になった。

おかしいぞ、流行語の話をしようと思ってキーを叩きはじめたはずなのに、などと思いつつ、スミス&ウエッソンのM59を得意気にいじくっていた友人は元気にしているかなあ、などと考えてしまうのであった。彼の実家は酒屋さんで、店の片隅にあるマガジンラックにはいくつかの週刊誌、マンガ雑誌にまざって月刊GUNという専門誌も置いてあった。ごく普通の酒屋で拳銃の専門誌が買えるという状況のユニークさに気付いたのは、けっこう大人になってからのことだ。