平熱通信

妄想癖、心配性、よそみがち。

4月ですから。

先月末のことだ。
リビングの壁に貼ってあるカレンダーを見ながら、「そろそろ4月だねえ」とつぶやいたところ、それを聞いた娘に、
「おそろしいことを言うなっ!」
……と、一喝されたのであった。

4月になれば新学期がはじまり、新しい授業新しい先生新しい学友新しい授業システムに慣れなければならない。「新しい授業システム」というのがなんとも今風というか、すべての授業の中で、オンライン授業がどれくらいの割合なのか、オンライン授業の中で、どの授業でZOOMを使い、どの授業が動画視聴のみなのか、去年とはいろいろと変わっているらしい。コロナ渦の影響で昨年突然はじまったオンライン授業なので、学校側も試行錯誤をしているのだろう。ちなみに、動画視聴のみの授業というとかなり楽そうな印象を受けがちだが、そういう授業は宿題が必ず出て、量も多めなので要注意、なのだそうだ

アルバイト先でも大変で、4月になると新しいメンバーが入ってきて、そういう人たちの前では一応、先輩っぽい顔をしなくてはならない。今までも新しい人が来たことはあったが、やはり人数が多いのは4月らしい。そもそも自分だってまだ下っ端で、新人と時給だってそんなに変わらないし、仕事だってロクに覚えていないのに、たった1年3か月はやく働きはじめたからって先輩っぽいことをしなくてはならないこの理不尽について、お父さんはどう思うか、と問われたので、
「とりあえず、仕事を覚えてみる、というところからはじめてみてはいかがでしょう」
……進言してみたところ、しばらく間が空いてから、お父さんが真っ当なことを言い出したらもうおしまいだという気になる、と言われた。父親として何が求められているのかよくわからない。

4月という言葉の響きから、新しい、とか、スタート、とか、新鮮な、という連想ができず、面倒くさい、とか、また慣れなければならぬのか、とか、まだ寝ていたい、と思ってしまうのが我が娘なのだ。娘のその気持ちはわからなくもない、というか、実によくわかる。そもそも僕自身がそういう人間なのだ。
遺伝子の問題なのか環境の問題なのかわからないが、そういう親の下にはそういう娘が育ちがちなのかもしれない。

幸か不幸か今年の4月に関していえば、僕の生活はそれほど変わっていない。なんというか、気がついたらぬるりと新年度が始まっていた、という感じなのだ。
相変わらず在宅勤務は続き、相変わらず体調もまあまあだったりイマイチだったりの繰り返しだ。ただ、長い目でみれば、イマイチな日の割合が少し下がっているような気はしないでもない。

4月だから、とか、春なので、という理由ではなく、たまたま時期的にそうなっただけではあるのだが、最近、在宅勤務をしている社内のメンバー3人で、夕方にミーティングをするようになった。もちろんそれはオンライン会議アプリを使ったもので、実際にどこかに集まって話し合うわけではない。
一応、お互いの作業状況を確認し、認識を共有するという表向きのテーマはあるものの、ミーティングの時間の大半は雑談をしている。「よほど緊急のものでない限り、極力仕事の話はしないように」というのが、そのミーティングのルールなのだ。
話の内容に仕事成分がほとんどないので、基本的には5分程度、長くても10分くらいを想定してはじめたミーティングなのだが、はじめてみると予想以上に(僕を含めて)皆よくしゃべる。今はそれほど忙しい時期ではないからいいようなものの、平均して30分を超す雑談が日々行われていることは、現場に出社しているメンバーには知られないようにしたほうがいいかもしれない。まあ、このミーティングがなかったらコンビニで「レジ袋いりません」が唯一の会話、というメンバーもいるので、それなりに意義のある雑談だとは思う。

とかなんとか身近な人間界の諸事情を鑑みると、なんだかいろいろありますな、という4月ではあるが、陽気もよくなってくるし、あちらこちらに花が咲いたりもするし、歩く人々は薄着になってきたりもするしと、ちょっと浮ついた気分になることもある。
気圧や気温の急変化には注意が必要だが、そのへんの塩梅がよければちょっと長めの散歩でも、という気分にさせてくれるのもこの時期ならではなのは間違いない。

そういえば、最近ネット通販でキャンバスのショルダーバッグを買ったのだが、そのバッグを携えてで出かけた場所といえば、近所のドラッグストアと徒歩10分の銭湯と徒歩と電車で1時間の病院だけだということに気づき、ちょっともったいない気分になる。
大きすぎず小さすぎずかわいいロゴが入っていていい感じに安っぽいその黒いバッグをひっかけて、暑くなる前にもうちょっと遠くに行きたいなあ、などと、自他ともに認めるインドア派で、ステイホームの申し子とまで言われている(誰にだ)僕ですら、柄にもなくそう思うのが、まあ、4月ですから、ということなのだ、と思う。